Illustrator & Graphic designer based in Paris.

発見

2017年08月17日

去年の今頃は、南フランスを自転車で回っていた。私にとってはあんなハードな旅は初めてだった(過去ログ参照)が、思い出となってしまうと良いことばかり思い出されるのは不思議なものだ。
 
さて、先日また、自転車旅行に行って来た。大西洋沿いのロシェルという街まで電車で3時間。そこから自転車でレ島(一文字しかない名前が妙に気になる島)へ渡って、その後一度ロシェルへ戻り、今度はフェリーでレ島の南にあるオレオン島へ。最後にロシュフォールという街へ行って、電車でパリに戻った。全部で6日間。回る場所もそう広い範囲ではないし、まあ去年のようにしんどい思いはしないだろう、とタカをくくっていたが、別の意味で自分の限界を試されることになった。
 
オレオン島に滞在していた夜、夕立のような激しい雨に遭った。思えば去年の旅行中は、一度昼間に通り雨に降られたのみで、夜、テントの中で雨をやり過ごしたことがなかった。夫が結婚前から使っているというこのテント、作りに難があるのか劣化したのか、なんと雨漏りしたのである。
テントの側面から雨が伝って地面に落ちる部分、つまりテントの床面両脇からじわじわと、そして天井の通気口となる部分からポタポタと。あまりにも雨が激しく断続的に降るので、その音と浸水の恐れから、殆ど寝た気がしなかった。濡れたら困るカメラと携帯、パスポートやカードの入った小さなバッグのみ、寝袋とその下のマットの間に入れ込んだ。
 
私はすっかり精神的に参っていた。寝袋から出た顔を狙ったかのように雨水が落ちて来ることも不快だったし(テントが狭すぎて避ける事もままならない)、今このキャンプ場の中で、濡れながら寝ている人なんて他に居ないだろう(当然自転車旅行の私たちが、一番物も少なく質素だった)という、惨めさにも負けそうだった。夫はサバイバルに関しては恐ろしくタフなので、この状況に対する私の苦情は全て「大したことではない」と共感してもらえないことも不満だった。
 
私は一体何でこんなことしてるんだろう?
 
去年の自転車旅行の時と同じ疑問が浮かんだ。自分一人の旅だったら、確実にこんな目には遭っていない。快適さを優先するからだ。
もう帰りたいって言おうか。全て投げ出したい欲求が渦巻くが、本音は帰りたくはないのだ。心にも無いことを言っても仕方が無い。じゃあどうしたいんだろう、自分は。顔を塞いで拗ねていた状態から、少し冷静になる。私は今、この状況を楽しむ余裕が全然ない。大抵の物事は受け取り方次第なのだ、自分に原因があるとしか思えない。
と同時に、夫のことを考える。この人は、私を楽しませようと、フランスの綺麗な場所をたくさん見せたいと思って、こうして連れて来てくれてるんだよなぁ。
私、何に対してこんなに腹を立てたり、落ち込んだりしてるんだろう?
そう思った時、ふと気付いた。テントが水浸しになった所で、濡れて困る物だけ守れるのならば、後は何が問題なんだっけ?私の身体や服、寝袋は、乾かせば元に戻るじゃないか、と。
 
これは自分にとっては大きな発見だった。今まで自分を果てしなく暗い気持ちにさせていた物事が、一瞬で無くなったのだから。あれ、別に大したことじゃないな、と、この事態に対して、初めてここで夫と同じ目線を共有したのかもしれない。
 
後でこの話を、日本にいる兄にしたら爆笑された。少なくとも兄は私のあの時の落ち込み様を理解してくれた。それは腹を立てて帰る人もいるレベルだと。そして、私の感覚が夫に近づけば近づくほど、他の人に対して共感できなくなるかもしれないな、と言われ、確かにそうだ、気をつけよう、と思った。
子供の時だったら、素直だからきっと「濡れても乾けば大丈夫だよ」と言われたら、そうなんだ、と思ってそこで済む話なんだろう。
既に40間近の私にとっては、「テントの中で濡れるなんて有り得ない」ことであり、不快さとどうにもならない不甲斐なさで大いに落ち込んだが、ふと見方が変わったことでそれが覆され、自分の気持ちもすっかり軽くなったことは、興味深い出来事だった。
 
ちなみに翌日も同様に夜から雨が降り出したが、自転車を包む為に使っていた大きなビニールシートをテントの上から被せて止め、事なきを得た。
しかし、この次自転車旅行に出る時はテントを新調したいものだ、としみじみ思ったことは言うまでもない。